基調講演

座長
公益財団法人ダノン健康栄養財団 理事長
新百合ヶ丘総合病院消化器・肝臓病研究所 所長
井廻 道夫


 「若い女性の栄養と次世代の健康」
 
早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構 招請研究院員
千葉大学 客員教授
福岡 秀興

 

 栄養の重要性が分子レベルでも明らかになってきました。健康・疾病リスク・日々の生活の質を大きく決めるのは栄養そのものであるといって良いでしょう。しかし、若年女性をみると、体格指数〔BMI〕18.5以下の割合は高く、本人自身の健康度の低下が危惧されます。同時にそれは次世代の健康へ望ましくない影響をもたらします。長いライフコース、世代を超えた健康を考えねばなりません。少子高齢化、人口減少が急激に進展している今、栄養の重要性をみんなで真剣に考えなくてはならない時代といえます。

「やせ」の本人への影響
 女性の「やせ」が美しいとする根強い社会風潮があり、やせ願望は若年化しています。最近20年で20代女性の一日平均エネルギー摂取量は約1,900kcalから1,600kcalまで減少し、ビタミン類・不飽和脂肪酸などの栄養素の摂取量も(著しく)減少しています。20代女性の多くが栄養不足にある事が危惧されています。当然それは遺伝子の機能に与える影響も大きいとい
えます。バランスのとれた必要で十分な栄養を摂取する事が大切といえます。
 「やせ」の影響を考えてみます。女性の健康は、卵巣機能に大きく依存しています。卵巣機能の低下する閉経前後から、更年期障害の出現、骨密度の減少や動脈硬化が始まるように、卵巣ホルモンが規則正しく分泌される事で女性の健康は維持されているといって過言でありません。一方で、卵巣の働きを調整している中枢機能は体脂肪量に強く関係しており、痩せる事で卵巣の働きが障害を受けます。まず月経不順となり、程度が進むと無月経に進展していきます。体脂肪率15%以下になると月経不順が増え、10%以下になるとまず無月経となっていきます。BMIの減少とも明確な関連性があります。無月経は第一度、第二度と分類され、重症の第二度無月経は約半数程度しか卵巣機能は回復しないといわれています。急激な体重減少により第二度無月経になると、若年時から卵巣機能を廃絶するリスクが高く、取り返しのつかない健康障害が起こる危険があるのです。卵巣ホルモンの一つであるエストロゲンが減ると、物忘れが激しい、疲れやすい等という更年期障害にみられる症状が出て、長期では、骨量の減少、骨粗鬆症、動脈硬化、認知症も起こっていきます。その危機感から多くの国ではやせたファッションモデルを規制する大きな流れが出てきており、女性美の概念は健康を中心としたものへと世界は変わりつつあるといえます。女性が健康である事こそ社会全体の最重要課題なのです。
やせて妊娠した場合の子供への影響
 「やせ」た状態で妊娠すると、次世代の健康リスクが出てきます。早産や出生体重の低下が起こりやすいのです。小さく産まれた子どもは、生活習慣病等を起こしやすい体質を持っている可能性があるのです。子宮内が低栄養であると、少ない栄養で生き抜ける体質を持って生まれる事になります。生まれた後は、逆に過剰な栄養状態で生活していく事となりますが、胎児期につくられた体質はそれに適合できません。やがてエイジングと共に病気が発症していきます(ミスマッチ)。これが生活習慣病が起こるメカニズムの一つなのです。
 また妊娠中の栄養も決して望ましくありません。二分脊椎症やクル病児が増えている事もそれを示唆しています。日本では今なお、小さく産まれる子どもが増えておりその次世代の健康が心配されています。また出来ちゃった婚が20~40%といわれており、妊娠を考える以前の日常生活での栄養摂取の習慣は大きく次世代の健康に影響していくといえます。
最後に
 想像する以上に栄養は重要です。日々の食事が、自分自身、家族、子ども、孫にまで影響する事を理解して、食生活とダイエットの功罪を十分考えていただきたいと思います。これについて皆さんと共に考えていきたいと思っています。

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