講演2

16tokyo osawa座長 
愛知学院大学心身科学部 学部長
大澤 俊彦


16tokyo shimizu2.「乳製品と腸管免疫」

東京農業大学 応用生物科学部栄養科学科 教授
清水 誠

 

1. 腸管とは 腸管はもっとも始原的な動物にも存在する必須臓器である。進化の系統樹の末端に位置するヒトでは、胃に続く6~7mの小腸と1.5m程度の大腸があり、これらを併せて一般に「腸」と呼ぶ。腸には、①身体の成長・維持に必須な栄養素を輸送する吸収機能、②有害物質の体内への侵入を阻止するバリア機能、さらには③食品や細菌類など、腸管内に進入してきた物質を認識してその情報を体内に伝える情報認識・伝達機能がある。これらはいずれも異物に対する応答システムと捉えることができるが、その中でも最も複雑で高次のシステムが免疫系である。

2. 免疫系と腸管  我々を取り巻く環境には多様な異物がある、これを認識して攻撃し、身体を守るのが免疫系であり、それを支えるのが各種の細胞(免疫担当細胞)である。腸管内部は「内なる外」と呼ばれるように、腸は外環境から侵入する異物(非自己物質)に常に曝されている場所なので、腸管周辺には特に多くの免疫担当細胞が存在し、それらが作り出す機能物質とともにユニークな「腸管免疫系」を形成している。  腸管免疫系は、病原菌やウィルス等を認識し、抗体等を用いてそれらを排除する一方で、我々が必要とする食品成分などは排除せずに取り込むという、一見相反するシステムを持っているのが特徴である。いずれの場合も、樹状細胞やマクロファージなどの免疫担当細胞が、巧みなメカニズムで悪玉と善玉の異物を認識し、対応を行っている。

3. 腸管免疫系に影響を与える乳関連因子  腸管免疫系を制御する因子として近年にわかに注目を集めるようになったのが腸内細菌叢である。腸内細菌には乳酸菌やビフィズス菌のようないわゆる善玉菌から、黄色ブドウ状球菌やウェルシュ菌のようないわゆる悪玉菌まで1000種くらいが存在すると考えられており、その数は小腸下部から特に大腸にわたって100兆個と言われている。悪玉菌が優勢になると各種の有害物質が腸管内に生成され、腸管のバリア機能も傷害されることから、下痢、便秘のみならず各種疾病が誘導されやすくなる。一方、善玉菌が優勢になれば有害菌の増殖が抑えられるばかりでなく、免疫機能が向上し、感染防御、アレルギー・炎症の抑制につながる。このようなことから、腸内細菌は今や第2の臓器とも呼ばれ、それを健全に保つことが健康増進のカギと考えられるようになった。  

 牛乳・乳製品が腸管免疫系に及ぼす影響のうちの最大のものは、このような腸内細菌叢の改善作用と考えてよいであろう。発酵乳製品に含まれる乳酸菌やビフィズス菌のような細菌類、特に生きたまま腸に到達するプロバイオティクスと呼ばれる細菌類には、腸内細菌叢を改善する作用が認められている。また、乳中に見いだされたガラクトオリゴ糖などがきっかけとなって開発された各種のオリゴ糖は、腸内の善玉菌の栄養源となってその増殖を促進することからプレバイオティクスと呼ばれ、腸内細菌叢改善に有効な食品因子と認識されている。実は、牛乳中に4~5%も含まれ、乳糖不耐症の原因になるとされている乳糖にも同様の作用が期待される。これらの有効成分は善玉菌を増殖させ、短鎖脂肪酸のような代謝物を腸管内に大量に生成させる。近年の研究は、短鎖脂肪酸が腸管バリア機能を高め、有害菌を排除し、大腸細胞を活性化させ、免疫系を整備することを明らかにした。さらに、良い腸内細菌叢は肥満、糖尿病、動脈硬化、がん、脳機能低下やストレスの改善にも有用であることを示唆する報告が相次いでいる。

 腸管免疫系を制御する食品に関する研究は進んでいる。乳中には、腸内細菌を介することなく免疫細胞等に働きかける成分も見いだされており、乳製品は今のところ最も実効性の高い腸管免疫調節作用を持つ食品と考えられる。今後の研究・開発が期待される。

 

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