メールマガジン「Nutrition News」 Vol.118
2012年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
メタボローム解析を基盤としたマウス腸内細菌のシステム的解析
慶應義塾大学 先端生命科学研究所 

中西 裕美子 先生
 腸内細菌は宿主の腸内に共生し、栄養の供給、免疫システムの構築など宿主に様々な影響を及ぼすことが報告されています。腸内細菌由来の代謝物には、宿主のエネルギー代謝を促進し、免疫システムを活性化する物質がある一方で、発がん性を持つ物質もあり、腸内細菌のメタボローム解析を行うことが腸内環境を評価する上で非常に重要です。そこで我々はまず、キャピラリー電気泳動-飛行時間型質量分析装置(CE-TOFMS)を用いた網羅的なメタボローム解析を行い、腸内細菌由来の代謝物を探索し、代謝物から腸内フローラの機能について評価を行うことを目的としました。また同時に、次世代シーケンサーによる腸内細菌の16S rRNA遺伝子のシーケンスから得られた腸内フローラの構成と代謝物データを統合解析し、腸内細菌と代謝物の関係性を見出し、腸内のメカニズムに迫ることを目的に研究を行いました。
 

要旨

 本研究では、生後3週齢から20週齢の無菌マウス、79種の細菌(CIEAフローラ)を定着させたCIEAマウス、及びSPFマウスについて、糞便、尿、及び血漿を採取し、代謝物を抽出した後にCE-TOFMSを用いてメタボローム解析を行った。無菌マウスと比較しCIEAフローラマウスとSPFマウスでは、エネルギー代謝やアミノ酸代謝に関連する代謝物やビタミンが糞便中で蓄積していたことから、これらの物質が腸内細菌由来の代謝物であることが推定された。また、SPFマウスに比べCIEAフローラマウスの糞便では、窒素代謝・アミノ酸代謝関連の代謝物が増加しており、腸内細菌が産生する有機酸やビタミンの産生量の違いも見られたことから、糞便中の代謝物は腸内フローラの違いを反映していることが示唆された。血漿中の代謝プロファイルは、3種類のマウスで大きな違いは見られなかったが、SPFマウスでは他のマウスと比較しエネルギー代謝が活性化していると示唆された。今回、計測した血漿は末梢血であるため、腸管内で産生された代謝物は腸管から吸収され血中に入り肝臓や様々な臓器で代謝を受け全身の恒常性がはたらくため、血漿中代謝物は糞便中とは異なるプロファイルになると考えられる。
 本研究の代謝物と腸内フローラの統合解析から、糞便中代謝物と腸内細菌の関連性を見出すことができた。今後は、解析の個体数を増やすことで、多くの個体で共通に観測できる腸内細菌と代謝物の関連性について調べていく。

  • ごはんだもん!げんきだもん!~早寝・早起き・朝ごはん~
  • ダノングループ・コーポレートサイト

ページトップへ戻る