メールマガジン「Nutrition News」 Vol.113
2012年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
カロリー制限の抗老化作用に関与するシグナル伝達系の同定とその制御物質の探索
早稲田大学 人間科学学術院 基礎老化学研究室 

千葉 卓哉 先生
 老化はガンや生活習慣病、神経変性疾患などの主要な発症リスクの一つです。したがって老化を制御することができれば、これらの疾患の発症を遅延、または抑制することができます。実験動物をもちいた研究では、インスリン/インスリン様成長因子-I (insulin/IGF-I)シグナル系の分子機能を改変することで、老化の制御が可能となっています。また、多くの生物種において食餌カロリーを制限すること(Calorie Restriction; CR)は、上記の老化関連疾患(age-related diseases)の発症を遅延させ、寿命を延長させる最も確実な方法として知られています。カロリー制限による抗老化作用にも、インスリンシグナル系の関与が示唆されていることから、このシグナルを標的とした、高等生物における老化制御機構の解明が、現在世界中で盛んに行われています。それらの研究の多くは不老不死を目指した夢物語ではなく、老化関連疾患の予防・治療法開発を目指したものです。
 

要旨

 カロリー制限(CR)およびインスリンシグナル系の減弱によって、長寿命化を示すマウスをもちいた研究成果を応用し、抗老化物質の生体スクリーニングが可能な遺伝子組換えマウスの開発を行った。この生体センサーマウスが、CRに反応して血中へのレポータータンパクの分泌を増加させることが実証された。CR模倣効果が示唆された機能性食品成分を投与することによっても、レポーターが活性化されたが、高脂血症、高血圧の治療薬(CR模倣薬剤の候補)投与によってはレポーターの活性化は見られなかった。そのためin vitroで新たな候補薬のスクリーニングを行い、いくつかの候補を同定した。一方で、レポーターの活性化と酸化ストレス耐性との間に正の相関が見られることが示唆され、CR模倣効果を持つ抗老化物質の探索に、開発した評価系が有用であることが示唆された。今後はin vivoおよびin vitroにおける機能性成分の評価および探索試験を学内外の研究者・企業と行っていく予定である。
 また、インスリンシグナル系の新規分子、WDR6の全身性ノックアウトマウスの開発を行っている。Cre-loxP系をもちいた標的遺伝子組換えにより、ヘテロノックアウトマウスが誕生し、現在ヘテロ同士の交配によるホモノックアウトマウスの作製を行っている。さらに、カロリー制限の抗老化作用に重要なシグナル分子の一つと示唆される、NPY(neuropeptyde Y)のノックアウトマウスをもちいた解析を行い、NPYノックアウトマウスにカロリー制限を行っても、寿命延長効果や酸化ストレスに対する耐性の増強が見られないことを明らかにした。これらの結果から、CRの抗老化作用に関与する各種シグナル系の全容解明に大きく前進した。

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