メールマガジン「Nutrition News」 Vol.155
2015年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
母獣の低カルシウム栄養が、仔の成獣期に高血圧や慢性腎疾患をもたらすか?
 関西医科大学小児科学講座 
 
山内 壮作 先生
 近年カルシウム(Ca)の摂取不足やグルココルチコイド(glucocorticoid:GC)作用の活性化がメタボリックシンドローム(metabolic syndrome:MS)の病態に関与していることが示唆されています。報告者らも低Ca食を投与したラットにおいて、インスリン抵抗性が上昇しGC活性化変換酵素である11β-hydroxysteroid dehydrogenase type 1 (11β-HSD1)の発現が亢進することを報告しました。MSの発症要因の一つに、GC作用の亢進が関与することはよく知られており、Caの摂取不足はGCの活性化を介してMSのリスクを高めるものと思われます。
 一方、子宮内環境が胎児のエピジェネティクスに影響するという知見が報告されています。胎内での低栄養により低体重で出生した児は、成人期にMSだけでなく、高血圧や慢性腎疾患(Chronic Kidney Disease: CKD)をもたらすという報告が多数あります。しかし、低たんぱくによる影響はラットを用いた動物実験で証明されていますが、それ以外の原因は不明です。

要旨

 「胎児期のCa不足はグルココルチコイド関連遺伝子にエピジェネティックな変化を生じ、出生後の高血圧やCKDの発症率を高める」という仮説を立て、その検証を本研究の目的とした。11週齢のWistar雌ラットを、正常飼料で飼育した群とCa欠乏飼料で飼育した群の2群に分け、それぞれを正常飼料雄ラットと交配させ、妊娠中および授乳期にも同様の飼料を継続した。正常飼料母獣からの仔(正常群:雌雄、各5匹)、低Ca母獣からの仔(低Ca群:雌雄、各5匹)を生後21日に尿を採取し、体重、血圧、脈拍を測定後に断頭で採血し腎臓を摘出した。分離凍結した血清で、コルチコステロン濃度を測定し、腎組織学的検討を行った。生後21日(ヒトの離乳期)の体重は雄、雌ともに、低Ca群の方が正常群よりも有意に低値であった。血圧、心拍数に有意差はなかった。生後21日の血清コルチコステロン濃度は正常群と低Ca群の2群間に有意差は認めなかった。生後21日の腎組織において糸球数は正常群と低Ca群の2群間に有意差は認めなかった。また、両群ともに糸球体の硬化や半月体形成、メサンギウム細胞の増殖等の変化も認められなかった。一方、生後100日には低Ca群の雄において、血清コルチコステロンと血清アンギオテンシノーゲン濃度の有意な上昇を認め、また生後200日には低Ca群の雄において、血圧の有意な上昇を認めた。今後、詳細な解析を行う予定である。

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