メールマガジン「Nutrition News」 Vol.126
健康・栄養に関する学術情報

クロストリジアと免疫
 
  ヒトの腸内には100-1,000種の細菌が総数100兆個ほど存在して腸内細菌叢を形成しています。その構成は各個人に特有なものですが、健康状態により構成が変化し、逆にその構成の変化により健康状態に影響が出ることも知られています。しかし腸内細菌叢は多種多様で複雑ですし、生体側の各種臓器・組織も複雑な構造や機能を持っているので、どの菌がどういう機序でどういう影響を与えるのかを明らかにするのは困難な課題です。
  近年、これらの研究が世界的に注目され、多くの論文が発表されてきています。その背景として、一つには遺伝子解析や菌体成分、代謝産物などの網羅的分析手法が進歩し、これまで熟練を要していた腸内細菌叢解析が簡便に出来るようになってきたことがあります。また、免疫機能などの生体側についての解析も進歩し、さらに無菌動物に特定の菌を定着させるノトバイオート動物を用いることで、腸内細菌の生体への影響をより詳細に評価出来るようになりました。
  今回の論文は、腸内細菌と免疫機能、更にはそのなかでもクロストリジア綱細菌が免疫機能に与える影響について解説した総説を紹介します。クロストリジアはその中に毒素産生菌も存在することなどから、従来はどちらかと言うと好ましくない菌と考えられていました。著者はクロストリジアに属する各種細菌が、炎症抑制や感染防御の働きをもたらすリンパ球を誘導する機能を明らかにしたことなどで、世界的にも注目されています。
 
 
(内容)
以下のような項目について、下記概要で解説しています。
  「dysbiosisと疾患」
dysbiosisとは腸内細菌の構成異常のことであるが、最も顕著にdysbiosisを誘導するのは炎症である。一方、dysibiosisを起した腸内菌叢を与えたマウスで慢性炎症が起こる。逆に、ヒトでは炎症性疾患の患者に健常者の便を移植するFecal microbiota transplantation (FMT)の効果も報告されている。
  「特徴ある消化管免疫システム」
消化管には細胞障害性リンパ球やIgA産生細胞のほか、感染防御を助けるTh17細胞や逆に過剰な免疫反応を抑えるTreg細胞などのヘルパーT細胞など、多様な免疫細胞が存在する。
  「腸内細菌とIgA」
腸管IgA産生には腸内細菌叢の存在が必須である。一方で、IgAは腸内細菌叢構成に重要な影響を及ぼす。無菌マウスやラットにクロストリジアを定着させるとIgA産生が増加する。
  「腸内細菌とTh17細胞」
Th17細胞は主として消化管粘膜固有層に見いださ、腸内細菌の存在により分化誘導される。粘膜バリア機能を高めることで感染防御に働くが、過剰に活性化されると自己免疫・自己炎症疾患につながる。マウスやラットでクロストリジアに属するセグメント細菌(SFB)がTh17細胞の分化誘導に関与することが明らかにされている。
  「腸内細菌とTreg細胞」
制御性T細胞(Treg)は自己抗原に対する免疫応答や、過剰な免疫応答を抑制する。無菌動物では数が少なく、腸内細菌、特に一群のクロストリジア(Th17細胞分化誘導とは別の)を定着させることで誘導される。
  「おわりに」
宿主細胞への影響が把握できた複数の細菌種の組み合わせが、新しいプロバイオティクmixとしてdysbiosis改善の可能性を秘めている。

 参考

  
 詳細は下記論文をご参照下さい。
 
 本田 賢也
 「クロストリジアと免疫」
 腸内細菌学雑誌 27: 187-196,2013
 
 本論文はJ-STAGEにてオンライン公開されており無料で閲覧出来ます。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jim/27/4/27_187/_pdf
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