Vol.52(2) 第11回フォーラムから「行動変容を促す栄養指導」

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.52
第11回ダノン健康・栄養フォーラムより
行動変容を促す栄養指導
聖マリアンナ医科大学病院栄養部 部長
川島由起子先生

栄養指導とは

生活習慣病が増加している現在、医療現場では医療従事者の指示を遵守する「コンプライアンス行動」から、自分に必要なケアを自己決定する「セルフケア行動」に変わってきています。それに伴って栄養指導も、従来の「指導型教育」から「援助型教育」に変化しています。

栄養指導とは、教育的技法を用いて対象者に栄養や食生活に関する知識や技術を習得させ、態度の変容を起こすことにより栄養状態を改善・習慣化させ、疾病の予防や治療、増悪や再発の防止に役立てようとすることです。

つまり、栄養指導においては、対象者を行動変容へ導くことが対象者の利益につながらなければなりません。

行動変容を図る技術

健康行動のきっかけは「脅威(危機感)」を感じることです。脅威を感じるには「罹患性(このままでは病気や合併症になる可能性が高いと感じること)」と「重大性(病気や合併症になると、その結果が重大であると感じること)」が関わっています。

例えば、「自分は合併症にはならないだろう」と思う人には脅威は生まれませんが、「合併症になったら怖い」と思う人には脅威が生まれます。

 また、「食事療法によって疾患の進展を防げる」などのプラス面(有益性)と「食事療法は面倒だ」などのマイナス面(障害)を比較したとき、有益性をより強く感じないと「栄養指導を受ける」という行動にはつながらないと言われています。

つまり、対象者に脅威を感じてもらうこと、行動の有益性を強く感じてもらうこと、対象者にとっての障害をできるだけ取り除くことが必要と言えます。


行動を変えるための方法には、(1)オペラント強化法、(2)刺激統制法、(3)行動形成などが挙げられます。

(1)オペラント強化法

オペラント強化法は、望ましい行動を増やし、望ましくない行動を減らすことです。
望ましい行動を増やすには、ほめることが重要です。具体的な行動をとらえて、理由がわかるように、真心を込めてほめます。

しかし、以前から実践できていることは何度もほめないようします。また、ほめ過ぎると逆に効果が薄くなるので注意が必要です。
望ましくない行動を減らすには、注意を促すことです。人格を否定するのではなく、具体的な行動を注意するなどして、望ましくない行動に自分で気づくように誘導することが大切です。

(2)刺激統制法

刺激統制法は、望ましい行動を増やすために、その行動と関連する刺激を多くしたり、望ましくない行動を減らすために、きっかけとなる刺激を制限したりすることです。

例えば運動量を増やす場合、歩数を増やすために歩きやすい靴を履いてもらう、通勤時には駅のエスカレーターを使わず階段を使うなどが挙げられます。また、過食を減らすためには、食べる場所や食器を限定したり、食べながら新聞を読んだりテレビを見たりしないことなどが有効でしょう。

(3)行動形成

行動形成は、血圧値や血糖値の自己測定、スポーツクラブに通うなど、今まで行ったことがない新しい行動を少しずつ教えていく方法です。一度にできなければ、段階的に覚えてもらう必要があります。できないときにはどこが問題なのかを分析し、それを説明したり手助けを行ったりするなどの丁寧な対応が必要です。

食行動の変容を図る場合の基本的な方法は、まず、疾病に結びつく食生活や食習慣の問題点、行動の把握をする(栄養教育の初期アセスメント)とともに、健康行動に対する準備性の評価(図1)や、その行動をうまくやることができるという自信、すなわち自己効力感(セルフ・エフィカシー)の把握をします。

次に、評価判定に基づいた具体的で実践可能な行動目標を、自己決定を重視して決定(エンパワメント)します。そして、目的行動に沿った自己監視をしながら実施させ、得られた行動変容の維持・強化を行います。


図1 健康行動に対する準備性の評価(プロチェスカの準備性の分類)

準備性の段階
対象者の考え方や
行動の特徴
指導時の介入方法
ⅰ)
前熟考期
(無関心期)
健康行動にまったく関心を持たない時期(食事療法をまったくする気がない)(6ヶ月以内に行動を変える気がない) × 機械的な説明
× 心理状態や感情を無視
× 食生活の改善が当然という態度
○ 傾聴
○ 改善についての情報提供
ⅱ)
熟考期
(関心期)
行動を変える必要性はわかっており、変える気はあるが迷っている時期(6ヶ月以内に行動を変える気がある) × 変化のないことを責める
× 合併症などの恐怖心をあおる
× 対象者にとって望ましい部分を無視したり、否定する
○ 迷いに理解を示す
○ 良い事例を出す
○ 行動を変えないことの不利益をチェックする
ⅲ)
準備期
健康のために自分なりに何かを始めたり、始めようとする時期(1ヶ月以内に行動を変える気がある) × 変化のないことを責める
× 合併症などの恐怖をあおる
○ 迷いに理解をしめす
○ 癒すことで見通しが持てる様にする
○ やり方が分からない人にはやり方を、知識がない人には知識を指導する
ⅳ)
行動期
行動を変える必要性を認識し、変えつつある時期、あるいは望ましい行動が始まってあまり日が経たない時期(行動を変えて6ヶ月以内) × 始めたことを否定したり、過小評価する
× 行っていることを無視して、別の課題を出す
○ 今の行動を起点に段階的に進める
○ 良い結果をほめ、行動の変化を支援する
○ 周囲の協力を促す
Ⅴ)
維持期
望ましい行動が生活習慣として継続し、定着している時期(行動を変えて6ヶ月以上) × 行動期と同じようなこと
○ 現在の行動変化を支援し、随時強化支援を行う
○ 良い結果をほめる ○ 本人が望めば知識や技術の向上をはかる

※川島由起子先生の資料をもとに作成
(○:望ましい介入 ×:避けた方が良い内容)

栄養指導の評価

対象者の行動に対して適正な評価を行うことで、好ましい行動を強化、好ましくない行動は修正することができ、新たな問題の発見にもつながります。また、目標に向かっての対象者の達成度を測定したり、効果的な指導戦術を見つけたり、必要な記録文書を残すこともできます。

進行中の評価は、行動目標の達成度と体重などの効果指標の両方を合わせて評価すると良いでしょう。行動目標の達成度が高く、効果指標の改善がうまくいっていれば、順調であると評価することができます。

しかし、行動目標の達成度は高くても効果指標の改善が見られないこともあります。この場合、行動目標の設定に問題がないか、自己監視に間違いがないかなどを確認し、問題があれば、行動目標の修正や記録方法の再確認などの対応が必要になるでしょう。

目標の達成度が低く改善もない場合は、行動目標の設定が不適切、または支援不足と評価することができます。対象者を責めるのではなく、支援の仕方に問題はないかということも考えなければいけません。

また、行動目標の達成度は低いけれど改善はされているということもあるでしょう。それは、設定した行動目標以外に、もっと一生懸命に対象者が取り組んでいると評価できるので、取り組み内容の確認や行動目標の修正も考えなければなりません。

1回の栄養指導で、対象者の行動変容につながるわけではありません。栄養指導の回数を経て対象者の意識や知識が上がり、結果的にそれが定着しているということになっていなければいけないということです。

管理栄養士・栄養士には、対象者が形成した食行動や食習慣を、一時的ではなく継続できるようにするためにいかに支援し導くかということが求められていると言えるでしょう。


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