メールマガジン「Nutrition News」 Vol.80
第13回ダノン健康・栄養フォーラムより
災害時における管理栄養士の役割
せんぽ東京高輪病院 栄養管理室長・管理栄養士
足立香代子先生

東日本大震災が起こった時、多くの方が「自分にも何かできないだろうか」と思われたと思います。私もその中の1人です。災害医療チームの1つに、「日本医師会災害医療チーム」JMAT(Japan Medical Association Team)という、急性期・亜急性期に活動できる機動性を持ったチームがあります。このチームは医師・看護師・業務調整員(医師・看護師以外の医療職及び事務職員)で構成されています。構成メンバーに管理栄養士は含まれていませんが、私は今回その中にもぐりこむことができました。

災害時における管理栄養士の役割として、まず「食事支援」が挙げられます。献立作成や衛生管理などの炊き出しの支援です。次に、「栄養支援」です。被災地では、栄養相談や、サプリメント等の適正な使用についての支援ができます。また、現地で食事を作っている自衛隊員の中に、「みそ汁とご飯は作れるけれど、倉庫に余っている材料から何をどうやって作れば良いか分からない」と言っていた方がいました。現地での直接支援だけではなく、東京に帰ってから献立を作り、それを現地の保健センターを通じて自衛隊の方に使っていただく、というような間接的な支援のあり方もあると思います。

これらの支援は数人の栄養士だけではできません。日本栄養士会や協力企業と、また医療チームと連携をとりながら行うことがとても大切だと思います。

食事支援

ある避難所で倉庫を見せてもらうと、バナナがたくさん余っていました。なぜこれを使わないのかというと、本数が足りないからです。例えば避難所に700人の被災者がいた場合に、700本のバナナがなければ、それをどう使うかが分からないため、腐らせてしまうことになるのです。つまり、こういった場合は使い方を考えることが必要です。倉庫を見せてもらい、どのような支援ができるかを考えること、海外からの支援物資の缶詰などは、実際に食べてみた上で何に使ったら良いかを考えることも、私たち管理栄養士の仕事だと思います。

また、多くのボランティアの方が炊き出しをしていましたが、その内容はカレー、チャーハン、スパゲティが多く見られました。しかし、ある程度長く避難所生活をされている人たちとっては、「いつもカレー、チャーハン、スパゲティ」ですし、高齢で歯がない方には食べにくいでしょう。そこで私は、ボランティア活動から帰ってきてから、自衛隊の炊き出し用に、現地にある材料でできるシンプルな50のメニューを作り、メールで現地に送りました。

サプリメントを扱っている会社からは、みそ汁の中に入れるサプリメントを提供していただいたので、それを自衛隊の炊き出しのみそ汁の中に入れてもらえるよう頼みました。

このようなことも、管理栄養士ができる食事支援の形だと思います。

栄養支援

避難所での食事を調査したところ、炭水化物が中心で、タンパク質、ビタミンが足りていないことが分かりました。そして、老若問わず配給される内容は一律でした。そのため、高齢で歯が痛くて食べられない人もいれば、下痢をしても「食べなければ生きられないから」と氷のようなおにぎりを食べていた人もいました。ここで少し知恵を使えば、おにぎりをおじやにしてあげることもできたと思います。しかし、「自分だけのためだけにやってもらうのは気が引ける」という理由から我慢している人も多いのです。また、トイレが混むことや衛生面が不十分であることなどから、水分を摂らないようにし、便秘になる人がいることも分かりました。

しかし、このように調査をしているだけでは、意味がありません。「では、どうしたら良いか?」ということが大切です。ある中学生は、立ちくらみを訴え3日前に薬剤師にポポンSを貰って飲んでいました。よく聞いてみると、彼はポポンSを、良く分からずに1回にまとめて飲んでしまっていました。また、彼は中学生で成長期であるだけでなく、運動部のキャプテンとして震災前と同じように運動していたにもかかわらず、朝はご飯とみそ汁、昼はジャムパンというように、タンパク質がほとんど摂れない食事をしていました。病気ではありませんが、タンパク質やビタミンが足りなかったわけです。倉庫には山ほど支援物資があり、その中には経腸栄養食品もたくさんありました。もっと早く判断をし、それを供出していれば良かったのです。私たちは、役所の栄養士さんに話しをして、子どもたちにはタンパク質を多く摂ってもらうように手配してきました。

風邪で発熱し食欲不振を訴えていた17歳の男子の場合は、数日間、ビタミンC入りのドリンク、ポカリスエット、ジュース、水など、液体ばかり摂っていました。なぜ食欲がなかったかというと、ナトリウムが不足する一方で水分を過剰に摂取していたため、低ナトリウム血症が起きていたのです。1リットル中にナトリウム50mEq(食塩3gに相当)を含む経口補水液も配られていましたが、均等に配られていたため、彼は1本の配給分をすでに飲んで持っていませんでした。しかし、それがなくても知恵があればなんとかなります。どうするかというと、ポカリスエット1000mlに食塩を2g入れると、「飲む点滴」ができるのです。ビタミンC入りの飲料1000mlには食塩を3g入れます。カリウムの不足はチーズや豚汁を食べるようにすることで補うことができますし、タンパクやビタミンを補うためには、サプリメントを利用するようにしました。

口内炎ができている人には、医薬品ではビタミンB2は5mg~45mgの用量が出されます。しかし、私たちは医薬品を扱うことはできないので、サプリメントを勧めます。ポポンSにはビタミンB2が6mg含まれていますが、アリナミンEXにはビタミンB2が含まれていないため、口内炎には効果的ではありません。このように、予防としての量、或いは口内炎を治すのに効果のある量を、アセスメントに基づき、色々な企業から提供いただいたサプリメントの中から選んで勧めました。なお、ビタミンやミネラルを勧めるときには、食後30分以内に摂るようにし、特に水溶性のビタミンはできれば2~3回と分け、6歳以下は摂らないようにするなどの注意が必要です。

被災地では、高血圧の方がとても多くいらっしゃいました。特に便秘の方では、いきむと血圧が上がってしまいます。しかし、トイレに行くのが嫌で水分をあまり摂らないために便秘になる方も多く、「野菜を摂りましょう」と言っても野菜がありません。そのような方にはビフィズス菌を勧め、それでも改善しなかったら医師が薬を処方するようにしました。また、ワーファリンを服用している方もいらっしゃいました。この場合、食事に野菜が出てこないために、薬が効きすぎる可能性があるので、医師に確認をしていただくよう連絡をしました。

「子どもにラキソベロン(便秘薬)を使っても、お尻から血が出る」と訴えたお母さんがいました。離乳期のお子さんでしたが、震災で離乳食がなくなってしまったためミルクを飲んでいたのです。その避難所には子どもが少なかったので、倉庫には寄付された離乳食が山ほどあったのですが、お母さんはそれを知らないので「下さい」とも言えませんでした。そこで、倉庫に行って離乳食を選んでいただき、赤ちゃん用のスポーツ飲料や乳酸菌を勧めました。

医師が診察しているので、薬は処方されます。しかし、診察だけでは起きている症状の原因が何なのかは評価されず、対策を打つことができません。私は現地に赴き「管理栄養士で良かった」と思いました。今後は、どの管理栄養士が行ったとしても、「原因は何か」「どうしたら良いか」を現地の中で見つけることができるようにしておかないといけないと思っています。

様々な連携

現地の食事調査で分かった問題点として挙げられるのは、栄養のバランスが悪いこと、避難所の場所によって食事の内容に差があること、そして栄養障害のリスクに気づかないことなどです。栄養障害がおきてからでは遅いのです。水分だけ摂って寝ているとか、薬だけもらっているというのは違うと思います。また、誤った知識もありました。再び地震が起こることを恐れて菓子パンを山ほど段ボールに抱え込んでいる人もいました。場所によっては外に出ることを止められていたために、動かずにただひたすら寝るだけという人たちもいました。

そのような中で、管理栄養士は、食べ方の説明など生活習慣病患者への支援ができます。アセスメントや、アセスメントに基づくケアプランができます。食事を作ることだけではなく、限られた材料の中でどうやりくりしたらよりバランスが良くなるかを考えた献立の支援ができます。また、足りないものを把握し、支援を求めることができます。しかし、それらを行うには日本栄養士会や協力企業、そして医療チームとの連携が不可欠です。

このような災害は今後いつ起きるとも限りません。災害医療チームの仕組みの中に、ぜひとも管理栄養士を入れていただきたいと思います。管理栄養士は、医師とは異なる面で役に立ちます。また、役に立てる管理栄養士をしっかりと教育していかないといけないと思っています。管理栄養士は、いざというときに災害チームの一員として人を助けることができる専門職でありたいと思っています。

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