平成23年10月27日、食品安全委員会は、放射性物質の食品健康影響評価の評価結果をとりまとめました。この食品健康影響評価は、食品に含まれる放射性物質の量について明確な線を引いたものではありませんが、現時点の科学的知見に基づき、可能な限りの評価を示したものです。
放射性物質については、これまで食品衛生法上の規制がありませんでした。福島第一原子力発電所の事故に伴う食品の放射性物質による汚染を受け、平成23年3月17日、厚生労働省が食品衛生法上の暫定規制値を設定し、以降それにしたがって管理されてきました。この暫定規制値は、緊急を要するため、リスク評価機関である食品安全委員会の食品健康影響評価を受けずに定められたものでした。そのため、食品安全委員会は3月29日に、緊急時の対応として、放射性セシウムは実効線量※1で5mSv/年、放射性ヨウ素は甲状腺等価線量※2で50mSv/年(実効線量2mSv/年相当)が安全であるとする緊急とりまとめを行いました。その後も「放射性物質の食品健康影響評価に関するワーキンググループ」による審議が重ねられ、10月27日の第405回食品安全委員会において評価書を確定、厚生労働省に評価結果が通知されました。
今回とりまとめられた食品健康影響評価では、放射線による健康への影響が見出されるのは、通常の一般生活において受ける放射線量を除いた生涯における追加の累積線量でおおよそ100mSv以上と判断されました。健康影響が見出される値についての疫学データは錯綜していましたが、科学的知見の確実性や健康影響が出る可能性がある指標のうち厳しいものを重視するなどの食品分野のリスク分析の考え方に基づき、判断されたものです。しかし、この数値はおおよその値であって、閾値ではありません。また、100mSv未満の健康影響については、放射線以外の様々な影響と明確に区別できない可能性があることや、根拠となる疫学データの対象集団の規模が小さいこと、曝露量の推定の不正確さなどのために追加的な被ばくによる健康影響を証明できないことなどから、言及困難と判断されました。つまり、「おおよそ100mSv」というのは、健康への影響が必ず生じるという数値ではなく、厚生労働省などのリスク管理機関が食品について適切な管理を行うために考慮すべき値であることを示しています。
なお、今回の評価では、小児の期間については、甲状腺がんや白血病について成人よりも感受性が高い可能性があるとしています。この根拠となるのは、チェルノブイリ原発事故の際の疫学データで、被ばく線量の推定等には不確実な点がありますが、周辺住民の小児について、「白血病のリスクが増加した」「被ばく時の年齢が低いほど甲状腺がんのリスクが高い」等のデータが報告されています。
図1 主な疫学データによる放射線の健康影響

(食品安全委員会資料をもとに作成)
表1 「放射性物質に関する緊急とりまとめ」(3月29日)と
「食品中に含まれる放射性物質の食品健康影響評価」(10月27日)との比較
| 目標値 | 緊急とりまとめ (3月29日) | 評価 (10月27日) |
|---|---|---|
| 期間 | 緊急時(年間線量) | 緊急時・平常時を通じた生涯の追加の累積線量 |
| 対象核種・線量 |
ヨウ素(甲状腺等価線量50mSv(実効線量2mSv相当)) |
食品健康影響評価として放射性物質合計の実効線量でおおよそ100mSv以上※ |
| 主な論拠 | 国際機関(ICRP等)の緊急時対応に関する見解 | 放射線による健康影響の疫学データ(食品由来限定の疫学データが極めて少なかったため、外部被ばくも含めたデータも使用) |
(食品安全委員会資料をもとに作成)
※ウランは放射線による健康影響より、化学物質(重金属)としての毒性の方がより低用量で現れることから、他の核種とは別に耐容一日摂取量を0.2μg/kg体重/日と設定。
今回の評価結果は、食品からの被ばくを軽減するための行政上の規制値ではありません。食品の規制値の設定等については、評価結果が生涯における追加の累積線量で示されていることを考慮し、食品からの放射性物質の検出状況や日本人の食品摂取の実態等を踏まえて行うべきとされています。現在、厚生労働省では、この評価結果をもとに新たな規制値について検討を行っています。
※1 実効線量(Sv)・・・放射線を受ける組織・臓器によって人体への影響の大きさが異なるため、組織・臓器ごとの「等価線量※2」に、組織・臓器の違いによる影響度の係数をかけて、それらすべてを足し合わせた値
※2 等価線量(Sv)・・・放射線の種類(アルファ線、ベータ線等)によって人体への影響の大きさが異なるため、吸収線量(Gy;放射線が1kgの物質に与えるエネルギー量)に、放射線の種類の違いによる影響度の係数をかけて補正した値。
参考
・放射性物質の食品健康影響評価について(食品安全委員会)
http://www.fsc.go.jp/sonota/emerg/radio_hyoka.html