講演1

15imawari_size座長 
新百合ヶ丘総合病院消化器・肝臓病研究所
所長
井廻 道夫 先生



15shibata_size1.「時間栄養学」

早稲田大学先進理工学研究科電気・情報生命専攻
教授
柴田 重信 先生

 我々の体には、約24.5時間周期のリズムを刻む概日リズム(サーカディアンリズム)と呼ばれる体内時計が備わっている。このリズムの働きにより、睡眠̶-覚醒、体温あるいは血圧のリズムなどが1日のうちで変動する。体内時計は昼間を活動的に、夜間を安静的にさせる。体内時計を司るのが時計遺伝子であり、1997年のClock遺伝子の発見以来十数種が同定され、体内時計の分子機構が解明されてきた。脳の中の視交差上核に主時計があり、大脳皮質や海馬などの脳部位に脳時計があり、心臓・肝臓・腸・肺・骨格筋などに末梢時計があり、肝臓の時計はエネルギー代謝に、腸の時計は栄養の吸収などに関わる。主時計が指揮者で、脳時計や末梢時計がそれぞれの楽器であり、全体として時計のハーモニーを形成している。体内時計の生物学での意味を問う「時間生物学」が基礎づけられ、その後人への応用として「時間治療学」や「時間薬理学」が発展してきた。体内時計と食・栄養学を考えると、
(1)同じ食餌量を1食にしたり、朝食と夕食の比率を変えた2食にすると、また、高脂肪食の摂取タイミングを変えるとエネルギー代謝が変わり「夜食は太る」という現象が現れる。このように栄養素を取る時刻により、栄養の効果が異なってくることを明らかにする学問を「時間栄養学」と呼ぶようになった。つまり朝食と夕食では栄養素の働きが異なる可能性が考えられる。ところで、体内時計の周期は24.5時間であるので、0.5時間ずつ後ろに遅れていくが、朝の光が体内時計を一時的に30分程度進めるので、24時間に合わせること(リセットと呼ぶ)ができる。
(2)最近の研究では規則正しい食事も体内時計をリセットすることがわかってきた。 このようなリセットを給餌性リセット機構と呼び、主時計が衰えた状態でも発揮することから、光リセットとは異なったリセット機構である可能性も指摘されている。このような仕組みを便宜上「体内時計作用栄養学」とよぶ。体内時 計リセットには、朝食と夕食のいずれがその効果が強いか、食事内容は、あるいは夜の遅い時間帯の食事は体内時計を夜型リセットし、肥満を助長するか、などを考えてみる。
(3)肥満予防には運動は欠かせないが、運動にも適切な時間がある可能性があり、「時間運動学」の要素が必要となってきた。つまり運動による体内時計リセット効果とエネルギー代謝促進効果の日内リズムを考える。
(4)交代制勤務や、時計遺伝子に変異があると、食生活リズムが乱れ、結果として肥満・糖尿病になりやすい事が分かってきた。一方、遺伝的あるいは高脂肪食で肥満を示すマウスの時計遺伝子発現などには異常が見られること がわかってきた。不摂生な生活リズムを続けていると肥満の要因になり、肥満・糖尿病が生活リズムの悪化をもたらし、悪循環に陥る。交代制勤務における時間栄養・時間運動学的な予防法についても考えたい。
(5)人では、weekdayとweekendの過ごし方、すなわち、睡眠時間が大きく異なるほど、肥満のリスクが高まることが指摘されている。そこで、マウスを用いて、週間健康科学の視点の重要性についても言及したい。
 

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