シンポジウム2

14imawari座長 
新百合ヶ丘総合病院消化器・肝臓病研究所
所長
井廻 道夫先生


14iino2.「腎臓病と栄養」

日本医科大学付属病院腎内科
教授
飯野 靖彦先生

腎臓の役割は4 つある。①老廃物の排泄、②水電解質の調節、③酸塩基平衡調節、④ホルモンの分泌である。すべての役割は生体にとって重要な働きであるが、特に食事に関係するのは①−③である。老廃物の排泄は、食事で摂取した栄養素をエネルギーや細胞の構成要素として使用した後にできる有害物質を除去するために必須の機能である。人間にとって3大栄養素と言われる、炭水化物、脂質、タンパク質の中で、窒素(N)成分を含有しているタンパク質は生体で使用されたのち、尿素として人間は排泄する(他の生物では、尿酸やアンモニアとして排泄するものもある)。その尿素を排泄できる臓器は腎臓だけである。したがって、人間が生きていくためには腎臓による蛋白代謝産物、つまり尿素の排泄は必須の条件となる。さらに②の水電解質の調節に関しても、血漿中のNaやKが一定に維持されていないと細胞活動ができない。この恒常性をクロード・ベルナールは内部環境と名付けた。放射能などによる自然環境の悪化が起これば生物は生きていけないのと同じように、内部環境と呼ばれる細胞外液の量やNa・K濃度を一定にしないと細胞は生きていけない。人間は1日に大きな許容量(多量あるいは少量)で水やNa・Kを摂取している。たとえば、数日間ならば水は0−25L、Naならば0−500mEqの摂取によっても腎臓の調節機構で細胞外液の水とNa濃度は変化させないで生きていける。つまり、この水の量とNa、K濃度を一定に保っているのが腎臓である。次に③の酸塩基平衡調節であるが、摂取された食事はエネルギーに変換されるときに酸素を使い、二酸化炭素(揮発性酸)を出すとともに、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオンなどの有機酸(不揮発性酸)をだす。二酸化炭素は肺から呼吸によって排泄されるが、不揮発性酸は腎臓からだけ排泄できる。血液のpHは7.40±0.05と非常に狭い範囲に調節されているが、これも腎臓(と肺)のおかげである。

 さて、腎臓病になってこのような4つの腎機能が低下したときにどのように 食事を変化させなければならないか? もちろん腎臓病の原因(糖尿病、高血圧、慢性糸球体腎炎、のう胞腎など)の治療を行う必要があるが、その上で治療食を使用することで腎機能の悪化を緩徐にすることも可能である。慢性腎28臓病(CKD)治療ガイド2012にあるように、食塩制限3− 6g/day、水分の過剰摂取や極端な制限は有害、摂取エネルギーは25-35kcal/kg/dayが推奨される、肥満では20-25kcal/kg/dayに減量してもよい、摂取タンパク質量はCKDステージG1-G2では過剰にならないように、G3では0.8-1.0g/kg/dayに、G4-5では0.6-0.8g/kg/dayに制限することが推奨されている。さらに、アルコールの摂取量は男性で20-30ml/day、女性で10-20ml/day以下にする。また、肥満を防止し、禁煙に努めることも重要である。このような食事制限によって、腎機能悪化のスピードが緩徐になるとのエビデンスが蓄積されている。水電解質の異常(心不全や低Na血症、高K血症)やアシドーシスの存在も腎機能悪化を促進するので、食事制限が役立つ。

 人間は進化によって海から陸地に生活を変えてきた。環境の変化に順応するために遺伝子を変え(Red Queenʼs Hypothesis)、体の構造を変化させてきた。前腎組織から後腎組織へと変化してきた哺乳動物の腎臓もその一つと言える。人間が進化の過程で長い間過ごしたアフリカでは、塩分は少なく、食物もたまにしか獲得できなかった(幸運な時に獲物を捕まえられる)。そのような 環境では体内に塩分を貯留する機構が発達した(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系)。また、飢餓に備えるために少量の食物で血糖を上昇させ るほうが生存には有利であった。そのため、塩分貯留遺伝子や糖尿病遺伝子(飢 餓遺伝子など)が現代の人間にも存在する。遺伝子の変化は最低1万年かかるといわれており、好きなだけ食べられるような日本人の食生活になったのはせ いぜい100年程度である。したがって、塩もタンパク質も糖分も沢山摂取すれば病気になるのは当然である(進化病─進化生態学)。そのことを理解しながら、医師も患者も、病気を考え、食事に注意し、運動をして、治療していかなければならない。

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