メールマガジン「Nutrition News」 Vol.67
第12回ダノン健康・栄養フォーラムより
褥瘡チームにおける管理栄養士の役割
県西部浜松医療センター栄養管理室 室長
岡本康子先生

褥瘡の発生には、摩擦やずれなどの外的因子と低栄養などの内的因子があります。低栄養は全身状態の悪化や組織耐久性の低下をもたらして、創部の回復を遅らせるため、治癒のためには細胞の成長因子とともに多くの栄養素が必要になってきます。患者の栄養状態をしっかり評価して、その時期に適した栄養療法を行うことが、私たち管理栄養士には必要であると思います。

褥瘡の発生に関与する要因

褥瘡発生に関与する栄養不良には、エネルギーの不足、たんぱく質・アミノ酸摂取量の不足、たんぱく崩壊亢進・合成障害などがあります。また、加齢も栄養障害に起因する高齢者の褥瘡発生に関連する特徴の1つです。嗜好品の偏重、咀嚼・嚥下障害、下痢や便秘などから十分な食事がとれないことがあります。

これらを踏まえて適切な栄養管理を行い、栄養学的危険因子を改善する必要があります。そのため当院では「NST褥瘡栄養管理指標」という指標を確立し、この指標に基づいて栄養管理を行っています(表1)。

表1 NST褥瘡栄養管理指標

表1 NST褥瘡栄養管理指標

(岡本先生ご講演資料より)

症例1 嚥下機能に応じた食事からのアプローチ

70代前半の男性、胸部大動脈破裂、糖尿病などの既往がありました。脊髄障害のため下半身不随となり、仙骨部の褥瘡がひどくなったので(ステージⅢ)、褥瘡治療のために入院した方です。介入時の体重は測定不可でしたが、身長は162cm、入院時の体重は43kg(自己申告)と、低体重でした。栄養アセスメントをしたところ、%AMCは88%、%TSFは37%、アルブミンは2.5g/dlで、嚥下障害もあります。低体重、%TSF等から脂肪の不足が見られ、アルブミンも中等度低下ということで、中等度栄養不良と判断しました。

その患者は、嚥下障害はあるものの咀嚼機能に問題はありませんでした。嚥下障害に対応すると、刻んでとろみをつけた、嚥下Ⅲという形態がベストと評価されました。しかし、私たちは患者に十分なエネルギーをとらせたいのですが、この患者は食への関心が高く、嚥下食を食べず、普通の形態を願望しました。このような場合、どのように対応すればよいのでしょうか。

咀嚼機能に問題はないというところが1つのヒントになります。歯さえあれば、よく噛むことで嚥下食に近い食形態にできるからです。口腔外科医の指示のもと、看護師は患者の上半身の角度を45度に拳上し、食事が咽頭の右を通るようにするために、右を向かせるようにしました。

管理栄養士は、箸でつぶせる固さの食事とし、水分はとろみをつけ、手で持って食べられるサイズのおにぎりを提供するようにし、リハビリを兼ねて自食を勧めました。食事からのアプローチも手助けとなり、褥瘡の肉芽も良好に増殖し、ポケットが消失したために、このまま転院となりました。

マニュアルがあっても、患者に適したメニューに変更すること、つまり、栄養計算ばかりにとらわれずに患者さんの気持ちを尊重し、みんなで食べる気力を支援することが大切です。

症例2 経管栄養ルートから経腸栄養剤でのアプローチ

70代後半の男性、アルツハイマー型認知症と高血圧症の既往があり、やはり褥瘡がありました。嚥下機能の低下が見られ、嚥下Ⅲの刻み・とろみ食の提供を行っていましたが、摂食に対して拒否が強く、全く食べないという状況でした。嚥下機能評価も、拒否により行うことができません。

この患者は中等度の栄養不良であると判断し、必要エネルギー量や必要たんぱく質量、必要水分量等を決定しました。その上で、まずは栄養状態改善に向けて経腸栄養を行い、その後で食事を開始しました。体重は元の状態までとはいかないながらも戻り、2.1g/dlまで低下したアルブミンも2.9g/dlまで戻るなど、栄養状態も改善が見られました。仙骨部の褥瘡も上皮化し、治癒した症例です。経腸栄養で患者が元気になり、食べる意欲が出ることは、非常に多くあります。患者とよく話をして、経腸栄養を行った上で食事を開始するということは重要であると感じています。

管理栄養士の専門的役割

褥瘡治療が効果を発揮して、治癒を促進するためには、患者の栄養状態が大きく関与すると考えています。基礎疾患や嚥下障害による食事量の低下を予測し、早期に嚥下・咀嚼機能を的確に評価し、適正な栄養ルート及び食形態を決定し、患者の栄養量を充足することが管理栄養士の専門的な役割であると思います。

除圧やスキンケア、体位交換などは重要なケアとはなりますが、患者の栄養状態が不良であれば、褥瘡は容易に悪化してしまいます。褥瘡の予防・ケアには、栄養状態をしっかり評価して、褥瘡チームの専任看護師、口腔外科医、口腔衛生士等と連携をとりながら、予防・治療のための適正な栄養管理、栄養ケアを検討して実施することが重要でしょう。

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